はてなブログ・・・略・・・小説、31日目。
少女の親友にとってすべては明らかになった。彼女自身がすべてを詳らかに説明し、かつ、彼女の近親者ふたりがそれを追認したからである。誰あろう、被害者である本人が認めているのだから納得以外の選択肢はないといってよかった。
少女の願いは叶ったかに思えた。彼女自身、それを納得したはずであった。しかしながら彼女の心の中に疑いが起こったのである。事実を明らかにした当日と、翌日、ちなみに日曜日であった、その日は久しぶりに肝胆相照らす仲に戻れたと安心したのである。時間を、久しぶりに感じることがない生活を送れたと思っていた。
日曜日は親友の提案でめちゃくちゃになったキッチンを原状復帰させることだった。母親は断ったのだが、掃除が好きだといって言い切るところは、親友の強さを改めて確認する機会となった。
だが、彼女が帰宅すると心の中に闇が広がっていった。最初は単なる点にすぎなかったものが食事の最中に、叔母がドレスデンに帰る算段をしていると話し出したことがきっかけになって視野に影響を与えるまでに肥大化してしまった。
「帰るって?」
「向こうから矢のような催促が降ってくるんだよ」
叔母がドレスデンで職に就いている以上、向こうに戻るのは当然のことだ。彼女の許婚者はすでに母国に戻っている。
母親の命を救ってもらい、自分に親殺しのレッテルが貼られることを阻止してくれた、まさに恩人だといってもいい人物だが、問題が目白押しの状態で、しかも、彼は太陽国語がまったく話せないことも相まって、それほど深い関係を結ぶことができなかった。
しかし帰国する寸前に、少女にはなじみの深いリヴァプール語で手紙を、叔母には内緒でくれた。
「あきらめるな」
ただ、その一言が安定感を暗示する文字で書かれていた。
少女は、今の段階でその言葉の本当に意味するところを言語化する必要はないと考えた。だが、がっちりと自分を摑んでいるような、そういう力強い手と腕を感じることはできた。いまはそれでよい、そう考えて生徒手帳の中にそっと忍び込ませた。
話を少女の叔母が帰国する問題に戻す。
叔母は、姪を値踏みするような目で見ている。明らかに反応を確かめているのだ。少女にしてみればそういう叔母の態度も気に入らない。
帰るという表現が気になっているのだ。
だが、すこし考えれば自然とわかることだが、全く問題がないとわかるのだが、すっきりとしない。すわり心地が悪い。
この若い叔母は幼いときこそ面倒を見てもらったものの、長じると学生時代から外国を渡り歩いたり、目的も告げずに行方不明になったりしていたので、ある時期からはいないのが当たり前となっていた。携帯やPCを親から与えられると、長い間、長いこと打ち捨てられていたブログやツイッターのアカウントが突如して書き込まれるように、ネットを通じて離れた距離をものともせず関係を深めつつあったのである。
仕事の都合ということだが、この年齢になって突然姿をあらわした叔母は、年齢的にみて親よりも若く、かつ、友人よりも当然のことながら年上であって、信頼を預けるのに適当な年齢であったのかもしれない。あるいは、いままでネットでつながっていたから、久しぶりに出会っても長いこと同じ時間を共有したような錯覚を覚えた可能性もある。
少女本人でもはっきりしない。
まるで今回のことで少女が元の彼女に戻ったかのような言いぐさだった。
そう思い切って、自分が間違っていることはわかっている。叔母は、自分は彼女にとって主治医になれないと言ったし、その理由は少女もわかっている。だが、そうはいっても納得できない。よく考えてみたら自分が叔母にも依存していることに気づいた。
そして自分が彼女に抗議するために、あるいは、胸をけ破って放出しそうなエネルギーの期限を考えてやるために、いつのまにか立ち上がっていたことに気づいた。
またあの騒ぎを再現させるつもりかと、二人の近親者は無言で言っていた。
少女はこの状況を改善するために何か言わねばとおもい、こんなことを呟いてしまった。
「ママ、まだ傷は疼くの?」
言うに事欠いてなんてことを言うの、という言葉を呑み込んで、殺人未遂事件の被害者は口を開いた。
「あなたはなんて言ってほしいの?」
「姉さん!」
それは絶対にこの状況で言うべきではないセリフだというニュアンスを込めて、叔母は語気を強めた。
涙ながらに姪が親友に言ったことがあった。それは今年の夏は仕事が入っていないから自分といられるから感謝することを言葉で強要する内容であった。その発言が発作的に殺意にまで及んだのだという。もちろん、実行者の前で行為を容認するわけにはいかなかったが、姉妹が二人どうしになったときに詰問した。しかし姉は何を妹が言っているのか全く理解していない様子だった。
「感謝しなさい」と命令するならともかく、肯定を前提として、いわば共通了解として押し付けるのではニュアンスが180度ほど位相が異なっている。
仕事の都合上、このままドレスデンに戻るのは不安だった。