略・・・・小説、三日目。

 あんた、贅沢すぎるんだよ、よく少女は友人からそういわれることがある。傍らの親友は、彼女の内情をよく知っているために、にこやかに天使めいた笑いを浮かべながら首肯しているのを内心ヒヤヒヤで見つめている。

 その視線が背中に突き刺さるのを如実に感じながらも、笑いの面を外そうとしない。いや、それどころかわざと口の端に米粒を付着させて、団欒している友人たちのひとりに指摘させようとしていた。

 いうまでもなく笑いを自ら道化になることで誘おうとしていたのである。一同の中で彼女の内面を知っているのは親友、ひとりだけである。

 ここは高校の片隅、屋上につながる踊り場であって、少女を含めた数人がよく昼食のために使う場所だった。夏が近いので入ってくる日光がややきついが少人数のプライベートを守れるので美術部の一行が重用していた。

 ちなみに、少女の親友は音楽関係の部活に入っている。同じ芸術コースでも通っているのは音楽コースだ。

 よほど、彼女の方が才能があると少女は感じていた。

 もしも、彼女が自分だったら、すこしは振り向いてくれていただろうか?整っていて、見ようによっては冷たく受け取れる容貌を観ながら思った。

 事ここに至って、やっと米粒が唇のふちについていることに気付いてくれた友人が指摘してくれた。わざとらしく笑ってみせる。

 どうしてあんなに歌がうまいのに美術コースに言っているのか、いまさらながら友人の一人が黄色い声を上げた。その日の放課後、カラオケに行くことを話題にした結果、そうなった。しかし、今度は少女が内心でヒヤヒヤする番になった。親友の目の前でよくもそんな発言ができるものだと、真実を知らないとは怖いことだと、少女は思った。

 しかも、彼女は衆目の中で怒りを隠そうとしながら、隠そうとしない。少女は尻をひそかに移動させて逃げようとしたが、親友の右手の方が早かった。彼女の爪の伸びた指が尻に食い込んだ。しかし、その顔は平然と笑っているのだから、恐ろしいことこの上ない。

 表面上、和やかなる昼食は予鈴によって中断させられた。友人たちにとっては残酷な命令に聞こえたようだが、少女と親友によっては苦しい舞台から解放される、いわば、解放のファンファーレというよりほかにない。

 ふたり取り残されると、真意のやりとりがはじまる。たった数分でもさきほどの会話よりも何倍も濃い、はずだと二人は勝手に確信している。

 「・・・・」

「・・・・・・・」

 だが、その日は普段ほど会話ははずまなかった。次のようにどちらかが言うので精いっぱいだった。

「カラオケ、午後に行くの?」