はてなブログ・・・略・・・小説、11日目。

 もともと叔母のフィアンセは外科専門医であるし、精神科医である彼女もその心得はあった。そのためにこの二人が付いているゆえに、母親は大丈夫であると少女は自分に言い聞かせはした。しかしながら、その自信は完全に揺らいでしまう。

 ある夜中など、突然、恐ろしい夢をみたせいで飛び起きた。その瞬間にすでに内容は忘れてしまったか、汗まみれになった少女は、ふいに母親がいま、生きていないような気がして、廊下に飛び抱した。さすがに理性が復活してきて、忍び足で母親が眠る部屋に近づくとドアノブを捻るのだった。

 そして、母親の胸の部分がかすかに上下し、寝息を立てているのを聞くと安心して寝室を後にする。まるで幼児帰りしたような気がする自分を顧みながら、思わず情けなくなって涙ぐんでしまう。このままじゃだめだと自分を言いきかせる。もしかして、自首しないことが自分をこのような状態に追い込んでいるのではないか、このまま自分がどうなるのか不安でたまらない。そのような様子を親友にすら見せたくなくて、メールの返事すらしていない。ほかの友人たちは言わずもがなである。

 未だに自分があのような行動に出たことが信じられない。だが、母親が傷ついて寝ている以上、少女がしでかしたことには異論がない。自分のあらゆる行動が、メールを返すという反射的な行動でさえ、殺人未遂犯という色が出てしまうのではないか、もしも、じっさいに出会ってしまえば親友ならば簡単に見抜いてしまうのではないか、そもそも豪放磊落な性格であって他人に無頓着な人間ではあるが、なぜか少女に対しては幼稚園で出会って以来あまりにも敏感なのだ。

 それゆえに、目と目を合わした瞬間にすべてを洞察されてしまう、それが怖かった。もう、あの事件を境にして以前と以後ではまったく違う人間になってしまったような気がする。ひたすらに夏休みが終わるのが怖い。本当に学校に行けるのだろうか?いや、学校に行かないといけないのだろうか?

 外科医である叔母のフィアンセは母国へと帰って行った。

 叔母も彼と行動を共にする予定だったが、姉のことが心配なので国にしばらく残るつもりらしい。しかし、専門の外科医が認めた以上、おそらく、もはや母親は命にかかわることはないのだろうと、少女は勝手に自分を納得させることにした。

 8月が半ばをすぎると自宅に帰る許可を叔母が出した。躊躇なく母は帰宅すると言い出した。マスコミの目もあるので少女は気が気でなかった。何かの拍子で情報がばれるかもしれない。別荘は秘密になっているというが、どこまで真実か。パパラッチのような存在を周囲で見かけたことはないが、ひそかに突き止めた人たちがいるかもしれない。彼らが盗聴器を仕掛けていたとしたら、今回のことで闇の機会の向こうで狂喜しているにちがいない。少女は目にみえない敵に怯えた。

 8月が終わりに近づき、宿題はすでにすんでしまったが、同級生のだれとも連絡を取っていない。携帯は見えないところに隠してあるし、PCの電源を入れることはない。

 そろそろ我慢ができなくなった誰かが行動を起こすことは簡単に予想ができた。唯一、自宅の電話番号が変更された際、その情報を告げた相手が動き出すころだ。少女はそれを予想してこちらから機先を制そうと携帯を、ごみ屋敷もかくやと思われるほど汚れた部屋から探し出そうとしていたところに、自宅電話の呼び出し音とともに叔母の声が響いた。

 母親と酷似しているが、冷静になって聞いてみればべつの喉が由来だとわかる声は、ある人物の名を挙げた。

 いざ、電話が設置してある場所に行ってみると、伝統に忠実に玄関に置いてあるが、叔母はすでに電話を切っていた。問い詰めるまでもなく口を開いた。

「メッセージを預かっている、いま、駅にいるらしい。しかし、変な子だな。そこまで来ていながら電話をかけてくるなんて、それも家電・・か」

「な、そんな・・・・・!?」

 少女は絶句するよりほかにすることを見つけられない。それは、あと五分ほどで自宅に到着するということではないか。はやく支度をしないとはやく寝間着を着替えて窓から薹逃亡せねばならない。

 身をひるがえしたところで叔母の一喝が少女をとどめ置いた。

「どこにいく?」

 叔母の話の持って生き方は、彼女がその筋のプロである故に恐ろしい。何気なく出た言葉によって芋蔓式に本心を手中にされかねない。ほとんど形を変えたレイプに近い。

それはそれでよいのだが、本当にそうしてほしい人は別にいて、叔母にまだ早いと注意いされたにもかかわらず発声練習のために防音装置づきの部屋にこもっている。

いや、そんなことはどうでもいい。どうでもよくないが、喫緊の問題はどのような顔で親友に応対したらいいのか、ということだ。

玄関に、まるでホテルの廊下ならば完備が法によって決められている、緊急消化装置のように、観葉植物が青々しく笑っていた。