はてなブログ・・・略・・・小説、16日目。

 少女は何食わぬ顔で夕食のエビを口に咥えている。

 彼女の親友としては複雑な気分だ。今更ながらなんと気分の変遷の激しい人間だろう。そのような気性は生まれつきなのか、それとも遺伝なのだろうかと、傍らで同じようにフォークで突き刺したエビを口に運ぶ少女の母親を見ながら、思考をここにはない世界に漂わせる。

 そうすると、二人とは、外見から誰でも容易に察することができようが、血縁関係にある、少女にとっては叔母さんに当たる人物が、長い髪をまったく揺らさずに首を動かすという芸当を見せて言葉をかけてきた。

「どうかな?舌に合わないかな?外国に長くいるとその土地の味に慣れ親しんでしまってね」

 もしも、彼女が発言するからこそ嫌味に聞こえないのだろう。少女によるとドレスデン人のフィアンセが太陽国に来ているということだが、彼は夕食に同席していないようだ。

 しかし、いま、彼女が思考の鍋に入れ込むべきことはそんなことではない。夜中に別荘に自分を連れて行くとは本気なのだろうか?距離的に自転車で行けないことはないが、何よりも夜道であるし、迷ったりする心配はないのだろうか?何回か、車に乗せられて言ったことがあるが、この家から20分くらいだったろうか。それを自転車で同じ道を使っていくとなるとどのくらいかかるのだろうか?

 イメージの中でひたすら街灯に照らし出されるアスファルトが続く。行けども行けども、それこそ山を幾つ超えても目的地に達しない。

 少女の叔母の口は動いているし、親友も何かしらの反応をしていることは、自分の身体を顧みればわかることだ。しかし、それは自我の中心にまで達しない。彼女の関心ごとはそこにはないからだ。

 一見、平然と食事を続ける少女に、さきほどのような精神の不安定な様子はみられない。失神したときはさすがに色を失った。感情の起伏は激しい方だと、常に身近にいながら感じてはいたが、今日のようなことはなかった。よほどのことが、会わなかった、あるいは、メールのやりとりをしなかった、わずかの間に何かがあったことは確かだが、

 しかし、鍋の中身はそろったもののいくら煮込んでも料理らしきものができるとは思えない。調味料や出汁の問題ではなく、材料そのものが圧倒的に足りなさすぎる。

 想像の中で二人は目的地に無事到着したが、ギャグ漫画のような終末が用意されていた。少女は別荘の鍵を忘れてしまったのだ。そういうことにならないように、出発直前に指摘しておこうとデザートのアイスクリームにスプーンを差し込みながら、親友はひそかに心に決めたのだった。