はてなブログ・・・略・・・小説、19日目。

「ほら、誰もいないって・・はやく出てきなよ、はやくしないとかに血を吸い尽くされちゃうわよ」

 少女が促すと親友は一人だけ道路に出て周囲を隈なく、近くの街灯は点滅を繰り返しているのでかなり暗かったので、彼女の努力内において精密に調べた。そもそも、警察は遊びで仕事をやっているわけではないので、ホシを騙すために警官を置いてパトカーが先に行ってしまうなどとありえるわけがない。

 親友に手を伸ばしてもらうと、少女はようやくアスファルトを踏みしめる自分の靴を発見することができた。

 温度的にはかなり暑いはずだ。その証拠に親友は手のひらを団扇に変わりにして自らを扇いで涼を求めようと無駄な努力をしている。

 だが、少女は思わずカーディガンでも羽織りたくなるほど寒気を感じていた。肌に触れてみると粟粒のような鳥肌ができている。あの警官たちのせいに決まっている。あの事件以来、警官やパトカーをみると思わずどきりとしてしまう。そういう恐怖感が自分でも予想だにしない言葉を彼女に吐かせた。

「ねえ、ママって確かに生きていたよね」

 もしかして、本当は母親は死んでしまったのではないか?もちろん、彼女が殺したのだ。

そして、その後、少女は少年院なのか、少年刑務所だがわからないが、そこに押し込まれているゆえに、今、この状況はそこで観ている夢にすぎないのではないか、そういう想像というか妄想に囚われる。今すぐにでも帰宅して母親が生きていることを確かめたい。携帯を使えばすぐにでも可能なのだが、そんな簡単な手段が思いつかない。まるで80年代の女子高生と化している。

 はやく帰るべきだと叫びそうになって、いかなる意図によってここにいるのか、という問題を思い出した。そうだ、親友にすべてを打ち明けなければならない。それをしていったいどうなるのか、彼女がそのうえで自分を受け入れてくれる、という保障があるわけではない。もしも、彼女の思う通りにならなかったら、自分はどんな行動に出るのだろう。本当のことをいえば、その時の彼女にそんなことをあらかじめ考えておく余裕はなかった。ただ、打ち明けたい、その思いだけが暴走していた。そして、そのために必要な舞台が、別荘であり、昔、二人で遊んだ海岸なのだ。

 だが、いざ目的地が近づいてくると身体がしり込みしているのがわかる。

 いま、自分の身体がぷるぷると震えているのは、紺色の制服のせいだけではあるまい。そして、あの禍々しい赤い点滅だけでもないと思うのだ。何よりも怖いのはこの親友なのだ。いま、ようやく動き始めた少女に従うように自転車を漕いでいる。街灯が作り出す影からそれとわかる。幽霊を思わせるほどに薄いが、なぜか、少女の心に投げかけてくるものの強さに心拍数が増加していく。

 何が怖いのだろうか?

 失うものがあるからこそ怖いのだろう。ならば、いまはそれをあることを一時的にせよ喜ぶべきではないか。意識がどうにかして無意識から這い上がってくる恐怖を何とかして収めようとしている。少女は高いところからそれを無感動に眺めている。

 意識の混濁を願っているのだ。

 記憶が曖昧になってほしい。目的地への道はいくつかの分岐点によってはぐらかすことが可能だ。もっといえば、右に行くべきところ左に行けばまったく別のところに向かえるということだ。親友は、この道に不案内だから指摘されることはないだろう。

 どうにか理性をやり過ごしている間に、いい塩梅に意識が混濁してきた。この様子ならば道を間違えたという言い訳が通じそうだ。適当に走って家にたどり着けばいい。ネオンサインがあるのは海側とその真逆の方向に限られている。どちらにしろ、いくら暗くても本当に道を間違えて帰宅できなくなる、ということはありえまい。

 心の何処かでは冷静な部分が生きていた。精神的に傍目でわかるほどパニックを起こしていても少女は自分でもいやになるくらいに完璧には理性を感情に預けない人間だった。だが、母親を刺したときはさすがに違った。もっとも、奥深くまで刺しこまなかったのはもしかしたら、冷静な部分が自制したのかもしれないが、あいにくとその時のことはあまりよく覚えていない。

 とにかく、意識に上ってこないならば、こないだけの理由があるに決まっている。無意識が考えることを禁じているのだ。いまは、それに従うことに越したことはない。

 少女は無意識から逃れるように、外部に意識を向けた。

 親友の声が少女の耳を劈いた。彼女にとって轟音に等しかった。

 その声が彼女の思考及び感情回路の何処かを故障させたのだろうか。彼女の発言内容をそのまま示せば、単に進むべき道が違うことを、道路標識を根拠に指摘しただけのことだった。声の大きさも客観的にみれば100メートル先まで響くような声では決してない。精神の混乱が刺激を拡大させたのだ。

 心の混乱はそのまま行動に影響を与える。

 急に立ち止まった少女。

 親友は、彼女が、自分の言葉を受け止めてくれたと誤解した。少女の中で百鬼夜行の混乱が起こっていることを平静な表情からは全く窺い知れない。だが、そこはかとない不安は覚えたのである。それは皮肉なかたちで的中することになる。

 二人が止まった場所は、高速道路に連結するだけあって照明のレベルはそこいらに立っている街灯程度ではない。昼間と見まごうばかりにこうこうと照らし出されている。親友は、少女の頬に生えている産毛すら見分けることができた。

 彼女の目は、光彩に浮かんだ孤島のような黒い目は、ただ一点を見つめている。だが、ベクトルが向いているはずの親友の顔ではない。彼女が正常な精神を失っていることは確かだった。何とか元の世界に戻そうと声をかけようとしたそのときに、車が二人の前に止まった。

 凶悪な白と黒。

 そうパトカーだ。中から這い出てきたのは強暴そうな印象を与える紺の制服に身を包んだ悪魔だった。

「あんたたち、未成年でしょ?」

 少女はゴキブリでも見る目を警官に向けた。その顔は恐怖に引きつっていた。だが、親友でなければそれは見抜けなかったであろう。

「名前は?どこから来たの?学校名は、高校生でしょ?」

 矢継ぎ早に質問付にする。そのやり口はおそらく相手に考える余裕を与えないのが目的だろう。親友にはべつの警官が同じことを聞いてくる。そちらが気になるが対応しないわけにもいかない。

 それにしても照明がきつい。そのせいで警官の表情が消えてしまっていることが余計に恐怖をあおる。能面との会話は親友から少女が席を一瞬だが消してしまった。だが、彼女にとってあまりにも衝撃的な言葉が、改めて一席どころか心すべてを少女が寝るベッドにしてしまった。

「ママを刺しちゃったの・・・・」