はてなブログ・・・略・・・小説、21日目。

 

 

 パトカーが町に入ってネオンサインが月ほどの大きさになって目に入ってくると、必要以上に効いている冷房のせいもあるのか、親友自分の心の温度が下がっていくのを感じた。事の重大性に気付き始めたのである。少女の母親は有名芸能人である。年齢が年齢だけに女子高生が見るようなテレビに出演することは少ないが、彼女らであってもその名を訊けば頷くであろう。一度だけ、かつてクラスにファンという子がいて、少女が似ていると騒ぎ立てたことがあるが、巧妙な手段でごまかした。とはいえ、今回の事件で、親友の認識ではすでに少女が母親を刺したことは紛れもない事実になっていることに注意、マスコミに露見すれば二人があれほど酷似していることは、女子高生に目にも届くであろう。

 

 二年次となって音楽コースに所属する親友はべつのクラスであって、そのような事態になっても対応のしようがない。

 

 それ以前に事件が明らかになれば学校にいられないであろう。高校生には死刑判決以外の何物でもない、退学の二文字がパトカーのフロントガラスに映し出された。しかし、傍らに座っている彼女は完全に何処かの世界に魂を飛ばしている。

 

 この車が行きつき先は自分たちの破滅だと夢にも思っていない目だ。半眼といえばずいぶんと宗教的な表現になるが、要するに瞼があまりにも重くて開けていられないのだ。小突いて無理やりでも現実と立ち向かわせたい。

 

 だが、前にいる二人の警官の威容が、親友を微動だにさせない。銀色の手錠が、むろん、そんなものは嵌められていない、単なる被害妄想だが恐怖に戦いている彼女の両手から鉄の輪っかが自由を奪い、じっさいに、重量感も感じているのである、それが彼女の自由を奪って、よもやそんな行動に出させることを不可能にしている。

 

 彼女の精神が再び混乱と発熱の極みにあるときに、パトカーが向かっている警察署では、すでに少女の母親と叔母が待機している。

 

叔母は姉の健康に不安をそれほど感じていなかったが、著名人である彼女にすでに忍び寄るマスコミの影を危惧していた。それを指摘しようと思ったら、すでに化粧をし始めていた。

 

 これは母親の顔なのだと、妹は思った。

 

「どうして、あの子の前でそういう顔を見せないのよ、姉さん」

 

 無駄だと思って、そのうえ、口に出しても無駄、出すまいとしていたが思わず口にしてしまった。返事から逃げるために自分も部屋にそそくさと急いだ。彼女も女性ゆえに化粧をしなければならない。囁くような声がしたから返事をしたのかもしれない。だが、あえて無視した。きっと、化粧をすることで娘の前に出たときは、彼女が憎む、ママに戻ってしまっているのだろうから。

 

 ほとんど行動は無意識のうちに行われ、いつのまにか助手席に姉を乗せて車を発進させるところだった。

 

「大丈夫?」と半分、義務感からエンジンを入れるまえにそう訊いていた。もちろん、判事は期待していない。予想以外の答えが返ってきた。

 

「できるだけ急いで・・・」

 

 どうやら化粧は母親の顔を隠しきれなかったようだ。これが娘の前に出るまでこのままでいられるだろうか?よしんばコーティングが完成しきらなくても、娘の顔を見たとたんにそれが完成してしまうかもしれない、いや、完成するだろう。

 

 自分にはまだ子供がいないから、自分と母親との関係から類推するしかないが、確かに母と子の間には外部から容易に入れないベールのようなもの掛かっているのだろう。妹、叔母といえどもむやみに破って乱入するわけにはいかない。しかし、両者の関係が完全な膠着関係に至りどうしようもなくなったときにはそれをあながちに否定するものではない。

 

 警察の待合室で姉妹は、血族とその友人を待っていた。