はてなブログ・・・略・・・小説、22日目。

 どうしてあんなことを言ってしまったのだろう?誰もそれを歓迎しないはずなのに。

 少女は、心のモニターにそう入力してみた。できるだけ傍らにいる親友の秋波を感じないようにする。吐息がうなじにかかってしまう距離である。たとえ触れていなくても背中に彼女の意思を強く感じる。

 ただ、親友にわかってほしかっただけなのか?

 それとも真に自分の罪を償うつもりがあるのか?

 後者ならば、おそらくこのパトカーの目的地で待っているであろう、母たちを目の前にして自首すべきだろう。

 前者ならば、その動機のいい加減さは、もたらす結果を考えていないと非難されても誰にも反論ができない。

 窓の外に女子高生らしい姿を見ないのが救いだ。ふつうの少女はなおのこと、少女たちが通うような私立のお嬢様学校でも例外ではない。この時刻だと町に繰り出していないというのは過去のはなし、おそらくそこにたまたまいないのか、パトカーを警戒して隠れているにちがいない。

 それらの目、目が急激に怖くなってきた。いざとなって外聞を恐れ始めたらしい。自分という人間が支離滅裂なことが判明してしまった。なんとなれば、あのようなバカな発言が精神病や、熱情に浮かされた結果ではないのである。

 ネオンサインが増えるごとに外からの情報が増えてくる。それが恐ろしい。少女を自分が作り上げた虚構の世界から現実に引き戻しにかかってくるからだ。自分の母親が有名人であることも今更ながらに思い起こされる。

 自分が何を犯したとしても、それ以前と同じように自分のことを見てほしい、そういう保障がほしかったのだ。警察の暴力的な白と黒が視界に入ったとたんに、幼稚園児がおもらしをするように、口から言葉が迸ってしまった。しかし、感情的にではなく、この場を利用して、という計算があった。

 少女は子供のときにそのような計算の元におもらしをしてしまったことがある。言うまでもなく、母親の愛情がほしかったのである。しかし、彼女の行為は母親を五線譜から取り戻すことができなかった。まだ中学生に上がったばかりだった叔母の手を煩わせたにすぎない。

 あの事件の後に、少女には内緒で叔母とそのフィアンセは、母親を叔父がやっている個人外科医院に連れて行った。腹膜炎が心配だというのが後から叔母から聞かされた話だ。思わず涙が流れた。叔母は、外科医になることを家族から期待されたにもかかわらず、勝手に精神科を選んだばかりか、ドレスデンへの留学も勝手に決めてしまった。そのことで勘当同様の扱いを受けて、母以外の血族とのつながりを断っていた。まさに世間で言うところの医師一家、であった。

 叔母の口調からわかることは、特に叔父に対してコンプレクスを抱いているようだった。そんな相手に対して頭を下げに行くのである。あの飄々たる叔母とはいえ、まったく精神的な障壁がなかったはずがない。

 それらのことを総合して考えていくと、自分がとんでもないことをしでかしてしまったのだと改めて認識させられる。

 パトカーが事故でも起こしてくれないかと、ひそかに願うがすいすいと、渋滞などあさっての方向に飛び去った道路を走っていく。さすがに人を轢いてほしいとまでは思わなかった自分を少女は褒めたくなった。

 そんなことを考えているうちに車は警察署に入っていく。あたかも、少女にとってみれば、一旦潜れば永遠に出ることが叶わない地獄の門のように思われた。